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京都地方裁判所 昭和33年(ワ)950号 判決

日産生命保険相互会社

理由

一、原告等の被告会社に対する請求について

(一)  (証拠)によると、被告安井は被告会社京都支社支社長安井博亮名義を以て、名下に京都支社長の印を押捺し原告等主張約束手形六通を振出し、原告孫主張の約束手形五通については、更に受取人たる被告安井より拒絶証書作成義務を免除して原告孫に裏書譲渡したことが認められる。

(二)  仍て、被告会社に右約束手形金支払の義務があるかどうかにつき判断する。

1  被告会社京都支社長に手形振出の権限があると認められる証拠なく(証拠)によると、被告会社支社長には、手形振出の権限は存しないのみならず、被告会社の支社は、新規保険契約の募集と第一回保険料徴収の取次のみを業務として、保険会社の基本的業務行為である、保険契約の締結保険料の徴収、並びに保険事故ある場合の保険金の支払業務を独立してする権限、組織を有しないことが認められるからその支社長は商法第四二条に規定する支店の営業の主任者に該らない。

2  (証拠)によれば、被告安井は、昭和三三年一月六日付を以て大阪支店勤務となり後任支社長御前隆弘は同月一五日着任、直ちに事務引継を了したことが認められるから、被告安井は本件約束手形六通の振出当時既に被告会社京都支社長の職を去つていたことは明であり、支社長として、在職中の代理権の範囲は前認定の範囲に止るところ、(証拠)によると本件手形は、被告安井が、被告会社京都支社長当時募集成績をあげるため、被告会社京都支社の事務所内で檀に貯蓄会をつくり之により得た金を得意先に融資していたところ回収不能のものが生じ之が埋合せに原告等より金融を仰がざるを得なくなつたことが認められる。(証拠)によれば、被告安井より、被告会社に於て必要があるとして、金融を求められ原告等も之を信じ金融を与え本件手形を受取つたことが認められるが、およそ、生命保険相互会社の如きが金融機関として、他に融資することは格別、金融業者その他より少額の金融を受けるようなことは社会通念上、考え難いことであり、被告会社本社等に問合すときは、被告会社がかかる手形について支払の責を負うかどうかは直ちに判明するところであるのに被告安井の言をたやすく信じ、本件手形を受取るに至つたものであるから、原告孫主張手形につき、原告孫が被告安井が手形振出の権限ありと信ずべき正当の事由を有する、第三者に該るか否かは暫く措くとして、被告安井に手形振出の権限があると信ずべき正当の理由があるとは認め難い。他に右認定を覆すに足る証拠はない。

3  従つていずれの点からしても原告等の被告会社に対する本訴請求はその余の点を判断する迄もなく失当として棄却を免れない。

二、原告孫の被告安井に対する請求について

被告安井に対する原告孫の主張事実は呈示免除の特約の存在したとの事実を除いては当事者間に争がなく、(証拠)によれば、被告安井は本件手形受授に際し、満期に本件手形を銀行交換に廻さないように依頼し原告孫方に持参支払うことを口約した事実が認められる。そしてかかる約定は満期到来後請求あり次第無条件に遡及に応ずる趣旨と解せられるから原告孫の被告安井に対する本訴請求は全て正当として認容すべきものである。

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